大判例

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名古屋高等裁判所 昭和62年(ネ)539号 判決 1989年1月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、参加によって生じた費用は補助参加人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨並びに控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加訂正する他、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表七行目のあとへ、行を改めて次のように加える。

「二 控訴人の本案前の主張

被控訴人は次の理由により本訴を提起する訴の利益を有しない。

1  贈与ないしは負担付贈与

(一)  俊二は控訴会社の株式全部を有していたのであるが、昭和五〇年ころ信幸に対し右株式全部を贈与する旨意思表示し、同人はこれを受諾した。

(二)  仮に、右贈与が認められないとしても、俊二は右株式全部を信幸に負担付で贈与した。即ち、俊二と正枝は、昭和三三年ころ信幸が結婚するに際し、家業を継いでくれれば控訴会社と右両人名義の土地を信幸に与えると言っていたが、長男である被控訴人が反対したため、この話は一時中止となった。その後一五年にわたり俊二と俊幸との間に各種訴訟が提起されたが、それらがいずれも俊二の勝訴に終って一段落した昭和五〇年ころ、同人は正枝列席のうえ、信幸に対しあらためて控訴会社の全株式と名古屋市千種区唐山町三丁目五番二の俊二名義の土地を贈与するので、家業の旅館業を受け継いでやって欲しい旨告げ、信幸もこれを受諾した。このように、俊二は昭和五〇年ころ、信幸が自分の後継者として引続き家業を受け継ぐことを命じたうえ、右株式全部と前記土地を信幸に贈与すると約したものであり、信幸もこれをうけて今日に至るまで一生懸命に家業のために働いてきたものである。従って、俊二の右株式の贈与は負担付贈与である。

(三)  右のとおりであるから、被控訴人は控訴会社の株式を相続によって取得するいわれはなく、被控訴人は控訴会社の株主ではない。

2  株主名簿への不登載

被控訴人は控訴会社に備付けの株主名簿に株主として登載されていない。

3  商法二〇三条二項の適用

仮に、俊二の死亡によって被控訴人が控訴人の株式を共同相続したとしても、商法二〇三条二項により株式共有者の株主権の行使は共有者において権利行使者を定めこの定められた者に限り可能であるのに、被控訴人はこの権利行使者に定められておらず、未だ持分権者の状態のままである。

4  訴権の濫用

仮に、右1、2、3の各主張が認められないとしても、被控訴人は控訴会社代表者信幸との間で、父俊二、母正枝の各遺産の分割を巡っていくつかの調停事件や訴訟事件で争っているところ、本件訴訟の目的は右争いの相手方である信幸及び武彦に対するいやがらせにあり、訴権を濫用するものである。」

2 同三枚目表八行目の「二」とあるのを「三」と、同一一行目の「三」とあるのを「四」とそれぞれ改める。

3  同三枚目裏一行目から同四枚目表四行目までを削る。

4  同四枚目表五行目の「4(一)」、同八行目の「二」とあるのをそれぞれ削る。

5  同四枚目表六行目の「昭和五〇年」の前へ「前記のとおり」と加える。

6  同四枚目表一一行目を「五 控訴人の本案前の主張並びに抗弁に対する被控訴人の答弁」と改める。

7  同四枚目裏一行目の前に次のとおり加える。

「1 俊二が控訴会社の全株式を所有していたことは認めるが、これを信幸に贈与ないし負担付贈与したとの事実は否認する。また、右株式については昭和三四年に株券が発行されたが、俊二から信幸へこの株券が交付された事実はない。」

8  同四枚目裏一行目冒頭の「1」を「2」と改め、同行の「抗弁1の(一)のうち、」とあるのを削る。

9  同五枚目表七行目冒頭の「2」を「3」と改め、同行の「抗弁1の(二)のうち、」とあるのを削る。

10  同七枚目表二行目のあとへ、行を改めて「4 訴権濫用の主張は争う。」と、更に行を改めて「5 抗弁事実は否認する、」とそれぞれ加える。

11  同七枚目表三行目から九行目までを削る。

第三  証拠関係(省略)

理由

一  当裁判所も被控訴人の請求を正当として認容すべきものと判断するが、その理由は次に付加訂正する他、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏七行目から一一行目までを次のように改める。

「二 本訴は、控訴会社の株主総会において控訴人主張の決議がされていないにも拘らず、それが行われたものとして前記争いのない商業登記簿への登記がなされているので、右決議の存在しないことの確認を求めるというものであるが、その実質は右登記簿に登記されて外見上控訴会社及びその関係者に拘束力を持つかにみられる株主総会決議が効力を有しないことの確定を求めるものである。そして、本訴は商法が制度的に予定した類型の訴ではないが、同法二五二条所定の決議無効確認の訴の一態様として適法なものと解することができ、その訴訟要件としては、通常の無効確認訴訟と同一に考えれば足りるものである。とすれば、本訴は控訴会社の株主であれば当然のこと、必らずしも株主でなくとも、右登記簿の記載に拘束をうけ、これを排除するのに本訴が適切であるとの訴の利益を有すれば、これを提起することができるものである。そこで、被控訴人に訴の利益が存するか否かにつき検討する。」

2  同八枚目表一行目の前へ「1(贈与及び負担付贈与の成否)」と加える。

3  同八枚目裏一行目から二行目にかけての「のみならず、」のあとへ「原審における控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、これは信幸が文面を書き、正枝は同書面に署名捺印したにすぎないことが認められるうえ、原審における証人福本順子の証言、原本の存在及び成立について争いのない甲第一八号証の一によれば、右文面の内容は正枝にとって意に添わないものであったことが窺われ、更に、」と加え、同二行目の「原本の存在及び」を削る。

4  同九枚目表八行目の「一ないし三」のあとへ「(同号証の三については原本の存在も争いがない。)」と加える。

5  同一〇枚目表二行目の「被告の主張事実」とあるのを「控訴人主張の贈与の事実」と改める。

6  同一〇枚目表三行目のあとへ、行を改めて次のとおり加える。

「(三) 次に、控訴人は俊二の家業である旅館業を受け継ぐという負担付で前記株式の贈与をうけたと主張し、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果と成立に争いのない乙第一九号証の供述記載はこれに沿うものであるが、未だ右本人尋問の結果や供述記載を裏付けるに足りる十分な証拠はないばかりか、前記1の(一)(二)(原判決引用)の証拠関係に照せば、むしろ、右主張事実に反する事実が認められるのであって、結局、負担付贈与の事実を認めることはできない。」

7  同一〇枚目表四、五行目を次のように改める。

「(四) 右のとおり、俊二が信幸に対し控訴会社の株式全部を贈与ないしは負担付贈与した事実を認めるべき証拠はなく、この点の控訴人の主張は肯認できない。従って、被控訴人は俊二から控訴会社の株式を相続したものの一人として、本件決議の存否ひいては前記登記簿への登記に関し利害関係を有し、本訴を提起する利益は有するものである。」

8  同一〇枚目表七行目の「株主権を行使するについての代表者を」とあるのを「株式共有者間において株主権を行使するものを定めて、これを」と改める。

9  同一〇枚目表八行目のあとへ行を改めて次のとおり加える。

「(二) しかし、被控訴人は株主であった俊二の相続人として控訴会社の株式を他の相続人と共有することにより、本訴における訴の利益を肯定されるものであるとはいえ、本訴は前記株主総会決議不存在確認訴訟の法理に従い、この決議の存否に利害関係をもち、これを争う利益を有するものであるならば、必らずしも株主でなくとも提起できるのである。従って、被控訴人が右の名義書換や権利を行使するものの届け等株主固有の権利を行使するにつき要求される諸手続を経ていなくとも本訴を提起できるものと解すべく、この点についての控訴人の主張は理由がない。」

10  同一〇枚目表九行目から一一枚目表二行目までを削る。

11  同一一枚目表三行目を「3(訴権の濫用について)」と改める。

12  同一一枚目表四行目の「1」とあるのを「(一)」と改める。

13  同一一枚目表六行目から八行目までを次のように改める。

「(二) 勿論、株主総会決議不存在確認の訴が訴権の濫用として許されない場合のあることは自明であるとはいえ、決議が存しないにも拘らず、これがあったものとして、商業登記簿にその旨の不実の登記がされれば、株主がこれを排除しようとすることはむしろ当然であって、被控訴人が信幸や武彦に対するいやがらせのみを目的として本訴を提起したものと認めるべき証拠はない。」

14  同一一枚目裏三行目の「あるから」のあとへ「、控訴会社は信幸のいわゆる一人会社ではなく、従って」と加える。

二  よって、右と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

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